彼は高三のころから不思議な感覚に迫られ続けるようになった。それはかれに真実の家族・真実の友人・真実の恋人・真実の愛・真実の何物かを感じさせた。彼はそれを感じる。しかしそれは遠のく。いやどういってもおかしくなるような恐るべき非交流のさなかの出会いであった。彼はそれに近づくために随分骨を折る。それはなにか? どうすれば自分に親しむようになる? どうすれば通じ合える? ひとつの捕獲網、科学と哲学の学習。彼は表現する暇も能力もないまま思考に没頭する。夜、たえず遠くまで散歩する。川辺を通り、水の音を恐怖し、初めての蛍を見る。彼は毎晩それを欠かさなかった。そしてどの晩にもほかの晩のことを一つも思い出せなかった。
思考のさなかに、かれはそのような思考の渦を一年前にも体験していたことを思い出す。あのとき彼はこう嘆き続けていた。もう少しで《あれ》にたどりつけそうなのに。ほんのなにかがあれば新しい世界にいけたはずだったのに。
汝はわれにたずねる なぜ一人留まるのか われ答う なぜ二を選らぶか われ生きる価値の無きものなり
空よ、われの真実の友よ 海よ、われの真実の親よ 木々よ、われの真実の教師よ 畑よ、われの真実の保護者よ 花よ、われの真実の妻よ
歌え 唱えよ われは一にして無のものなり
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