2010年4月20日火曜日

笑い女

 キス、遊園地、食事、公園、帰りのキス、拒食、ヒステリー、婚約、すなわちデートのフルコース。彼女がやり遂げたのはそれだった。
 男はわけもわからず彼女の実家に呼び出され、彼女もこちらを水厳粛で不機嫌そうな顔、どうしていいか教えてくれない。しかし気分的には分からんでもない。
「お嬢さんを幸せにします、下さい」
 と土下座する。彼女は自分の部屋のベッドで泣いている。顔を伏せて・・・・・・ いや、笑っているのだ。顔を上げると「あのときのあんたの顔・・・・・・」と言ってはまたクスクスと笑い続ける。「忘れてた」と涙をふきながらえんえんと男にキスし続ける、いたるところ公平に平等に。

 そのとき彼女はなんて美しい娘なのだろう、と思った。腹を折り曲げて笑ってぼくもつられて笑っているふりをしていたが、今まで見たことも無いほどひきつけられて「今だチャンスだ、逃すな」とたえず声が聞こえる。彼女は言う、「知ってた?」耳に近づけて、
「知ってた!?」
「いいや知らない」
 すると早口で子供が秘密を打ち明けるように、
「わたしの歯はダイヤでできてるのよ」
 と言ってクスクスと笑い続ける。笑い続けているがぼくが分からないでいると、また近づいてきて、
「ダイヤでできてるからどれだけぶつけても壊れないのよ」
 と言ってまたくすくすと笑い続ける。箸が落ちても笑うというやつだ。「つまり キスして。要するに キスして。キス、キス、キスして。」ぼくの頭にはそんなわけも分からないナレーションが流れた。

 笑い続ける女。発作に違いない。テーブルのものをすべて払い落とし時計を壊して、おふろに顔を突っ込んで、ふらふらと笑い続けている。この女が笑い続ける一時間ほどぼくはずっと女を追いかけて観察し続けている。何と美しいのだろう。笑いは、人間の顔から固有性を奪う。つまり脱領土化していた顔は身体によって再領土化されて踊りと同じように身体性へと拡大するのである。ぼくはその日あまりにも興奮しすぎて、ズボンを下ろし、その女を見ながらマスターベーションを始めた。女は一瞬ぼくの方をみたがさらに激しく笑い続けた、「あなた、ああ、それはいいわ! また、また、たいした、思いつき! あはは・・・・・・」

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